日系企業の「現地化」の現在地
【「現地化」連載2回目】
■8割の企業が「現地化」を必要
「現地化」成功のカギはエンゲージメント向上にあると前回申し上げました。
エンゲージメント向上のキーポイントを探る前に、日系企業の「現地化」の現状を見ていきましょう。
弊社では、APAC域内の日系企業の現地拠点を対象に、2022年3月に「現地化」の現状・課題に関するアンケート調査を行いました。(APAC全域で543社から回答)
以下に調査結果の概要を簡単に紹介させていただきます。
調査によると、78%の企業が「現地化」の必要性を感じています。
うち、コロナ禍により「現地化」の必要性が加速した、又は新たに「現地化」が必要になったという企業が27%と、3割程度がコロナ禍の影響を受けて「現地化」対策を変化させる一方で、残り7割程度の企業は以前から「現地化」が必要であったと回答しています。
■「現地化」=現地人材の幹部登用
「現地化」の定義(複数回答可)については、現地人材の幹部登用をメインとしており、「現地の経営層の一部に、現地人材を登用」
「現地の管理職の全部又は大半に、現地人材を登用」がいずれも55%程度を占め、トップ。
登用人材は、77%が内部登用を予定しており、自社の経営理念やグループ戦略に精通した人材を登用したいとの認識が強いようです。
幹部人材の育成には時間がかかります。
7割程度の企業がコロナ禍以前と同様に「現地化」が必要と回答していますが、随分以前から「現地化」を必要としていたのに、進んでいなかったというのが実情と推測します。
■6割は「現地化」の目途が立たず
「現地化」の進捗度合いについても尋ねています。
「現地化」は完了、又は完了の目途が立っているという企業が4割強である一方、「現地化」の目途が立たない、又は緒についていないという企業が6割弱存在します。
現状の「現地化」のプロセスに自信を持っている企業は半分に満たず、半数以上の企業が「現地化」のプロセスに戸惑いを覚えているという状況です。
「現地化」がなかなか進んでこなかった理由の一つは、「現地化」の定義が本社と現地法人の間、現地法人内で共有されていなかったことではないかと考えます。
目指すべきところがすれ違っていれば、現地人材から見れば、本気度を疑いたくなりますし、「現地化」が掛け声倒れに終わっていたところがあったのではないでしょうか。
例えば、現地人材を登用するのであれば、どのポジションにどんな人材をいつまでに登用するのか、そんな具体的な未来図・目標を設定し、本社との間、現地法人内で共有することが第一と考えます。
■「現地化」の近道はエンゲージメント
「現地化」の定義が共有された上で、次に行うべきは、やはり社員のエンゲージメント強化ではないかと思います。
「現地化」の定義の多くは、現地人材の幹部登用です。
つまり、「現地化」に向けた人材育成の途中では、選抜した社員に教育投資を傾けて、企業が意図的に教育投資の格差を設けていく必要があります。
とはいえ、企業は一部のエリートのみから成り立つわけではありません。
人材選抜や報酬分配のメリハリを効かせながらも、企業で働く社員の大多数の熱量を上げていかないといけない。
これは、ひいては、選抜したエリート社員を企業に定着させることにも繋がるのではないでしょうか。
実際に、好業績を続けていたエリート社員が他社に移って成果を発揮できない例は多々あります。
これは、本人の能力・スキルが劣化したわけではなく、本人が能力・スキルを思う存分発揮できた組織風土が消失したためと見る方が正しいのではないかと思います。
優秀社員が活躍できる風土を作る重要なピースの一つ、それが普通の社員のエンゲージメントだと考えます。
ある大手流通企業の執行役員の方が以前次のような発言をされていたことを思い出します。
「弊社のWAYは社員のためのもの。我々執行役員にとっては、ただの当たり前。」
つまり、様々な志向を持った社員を束ね、働きやすい環境を整え、組織に対するエンゲージメント・レベルを高めるために、WAYが存在している。
役員クラスにとっては、その体現は当然のこととなっており、あえて言語化されるまでもない。
さらには、社員にWAYが浸透すればするほど、役員クラスは働きやすくなる。
そういった意味が集約された言葉であるように思えます。
今回は「現地化」の定義や現状について触れました。
次回は「現地化」の目途が立っている企業と目途の立っていない企業の違いにフォーカスします。
2022年、「現地化」というテーマを、弊社は追及し、皆様のお役に立てればと思います。