; 「現地化」連載3回目

【「現地化」連載3回目】


 





「現地化」連載3回目



■「現地化」を促進する三種の神器

前回、エンゲージメント強化が、「現地化」を推進するエンジンであると申し上げました。

その理由は、普通の社員のエンゲージメントが向上すると、現地の経営・管理を担う選抜されたエリート人材が働きやすい環境が整うためでした。

ここで弊社の調査結果(2022年3月実施、APAC全域で543社有効回答)を参照したいと思います。

 

「現地化」の目途が立っている企業と立っていない企業とでは何が異なるのでしょうか。

その一つは、前回申し上げたように、「現地化」の定義の共有の有無にあるものと考えられます。

その他の違いを「現地化」の取組み、課題の面で見ていきます。

まず、「現地化」の目途が立っている企業は、そうでない企業に比べて、様々な取組みをより多く行う傾向があることが分かりました。

より試行錯誤の回数が多いとも言えそうです。

 

さらに、取組みに大きな違いが目立ったのは、「現地人材への権限委譲」、「本社および現地拠点の業績情報のタイムリーな共有」、「現地拠点でのエンゲージメント強化施策」でした。

実は、取組みにおける違いは、地域により差異があります。

中国では、「現地拠点でのエンゲージメント強化施策」が、タイでは「業績情報のタイムリーな共有」が、ベトナムでは「現地の管理職に対する研修実施」が、香港では「優秀な人材が働きやすい職場環境の整備」が、 顕著な差異として表れており、働く人の意識だけでなく、回答企業の属性、組織規模、「現地化」のステージに応じて、異なるものと推測されます。

 

ただ、全地域に共通して言えるのは、「現地人材への権限委譲」、「本社および現地拠点の業績情報のタイムリーな共有」、「現地拠点でのエンゲージメント強化施策」は外せない取組み、つまり「現地化」促進の三種の神器とも言えそうです。

 

■権限委譲、業績情報の共有=エリート人材の育成

「現地化」を進める際の課題についても見ておきます。

「現地化」の目途が立っている企業は、そうでない企業と比べて、「現地人材の能力・スキルの向上」、「現地人材のキャリア意識・価値観の変化」を課題視する傾向が圧倒的に少ないようです。

これは、三種の神器の取組み、特に権限委譲、業績情報の共有をしたことにより、目をかけていた社員が成長した、ということを意味しそうです。

一方で、「本社又は駐在員によるガバナンス体制の整備」については、双方の差異はほとんどありませんでした。

これは、「現地化」に自信を持っていても、不正やコンプライアンス違反、情報漏洩といったリスクがぬぐい切れないということを意味します。

特に中国では、ガバナンス体制の整備は、「現地化」の目途が立った企業の方がより課題視する傾向が見られました。

現地のエリート人材に権限を委譲し、業績情報を共有すればするほど、ガバナンスが難しくなるというオフセットの関係が透けて見えます。


■権限委譲とガバナンス強化の綱引き

権限委譲をすればするほど、現地での意思決定が速くなるだけではなく、現地の人材に責任を持たせながら、育成を促すことができる。

優秀な人材の育成のためには、前提条件として、それなりの給与を支給することは勿論ですが、責任=権限を一致させ、仕事ができる環境を整えることも重要です。

人材育成サイクルとして、目的をクリアにした上で、「自己裁量」⇒「承認を通じた自己有能感の醸成」⇒「成長実感」を回転させることを様々なところでお話ししていますが、育成サイクルのインプットとなる「自己裁量」を与える手段こそが権限委譲に他なりません。

 

一方で、前述したように、「ガバナンス体制の整備」は課題として付きまといます。

現地の人材に任せた後で、一発アウトとなるようなコンプライアンス違反が起こるようでは本末転倒です。

その意味では、現地のエリート人材を信用し、権限を付与して、仕事を任せて、「現地化」の本来の目的であるビジネス上の成功に導いてもらうことは大事ですが、要所で監視の目を入れることも同じく大事です。

この求心力と遠心力とのバランスについては、結局のところ、どのように権限委譲を進めるかということになりますが、こちらは次回に譲ります。


エンゲージメント強化が重要という認識で始めた当コラムですが、エンゲージメントについて語る前に、権限委譲、業績情報の共有といったエリート人材選抜・育成に直接かかわる取り組みについて、まずは触れていきます。

次回は「権限委譲」のあり方にフォーカスします。

 

歸檔於
企業管理
發行日期
修改日期
22/06/2022