在宅勤務のモヤモヤを解消~インプットの重要性
【在宅勤務のマネジメント】
先日弊社で実施するセミナーで在宅勤務についてのお問合せがあり、今回のコラムは、番外編で、在宅勤務のマネジメントの在り方についてお届けします。
※次回は予定通り、現地化のコラムを配信したいと思います。
■在宅勤務で見えなくなる社員の理解度・共感度
徐々に元の勤務形態に戻りつつあります。
現時点では、ハイブリット(一部オフィス、一部在宅)や大半が在宅勤務を継続されている企業様も多いものと思われます。
この在宅勤務、マネジメント側からすると、部下・同僚の非言語情報がすっかり減ってしまうことで、やりにくさを感じられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
これは、古き良き日本的なマネジメントの名残で脱却すべきというススメは理解できなくはないですが、一方でビデオ会議・面談等を通じて、部下・同僚のことが分かっているつもりになっている、いわゆる「裸の王様」状態になっているケースもあるのではないかと思います。
私個人としても、部下・同僚の理解度や共感度を、会議室から出て行っていた彼ら・彼女らの表情を見ながら、把握をしておりました。
Web会議の場合、要件が終われば、プツッと切れてしまって、会議後、デスクに戻るまでの談笑もなく、本音のところがよく分からない、そんなことが多かったです。
しっかりと肉声を聞いているわけではないので、そもそも理解度・共感度なんて分かるはずがなく、元々把握ができていなかったと言えば、それまでかもしれません。
では、サバサバとした要件だけの会議での言語情報から、今までと同じ情報を把握できなかったというモヤモヤは、マネジメントとして問題があるということなのでしょうか。
■日本と海外との働く意識の違い
人事制度を作る際、時に社員の方々のインタビューを行うことがあります。
会社に対する不満をお聞きした際の回答傾向が異なることに気が付きます。
日本での不満の種は、人間関係に起因するものが多い。
上司、同僚、部下の態度や言葉遣いから派生するようなものが多く、「良い人たちと働けているか」が大事でした。
一方で、海外(中心は中華圏)では、人間関係の不満を聞くことはあるものの、よく耳にする言葉は「会社の方向性が分からない」でした。
これは、日本ではあまり聞かない声で、初めて接した際は、違和感を覚えました。
これには2種類あります。
会社が財務的にも健全で、この先存続することが可能なのかという、会社の安定性への不安から発されるケース。
もう一つは、会社で働き続けた場合の自身のキャリア形成をイメージしにくいというもので、自身のキャリア形成が会社の方向性とリンクしうるか、という疑問から発されるものでしょう。
さらに話が飛びますが、日本とその他APAC地域とのアンケート調査結果(2019年パーソル総研調べ)を紐解くと、前の勤務先の退職理由について、大半の国・地域では給与を一番の理由としています。
ただ、日本では2番目に人間関係が来ており、他の国・地域とは一線を画しています。
人間関係というのは、仕事のインプット、スループット、アウトプットで言えば、スループットを意味し、「どのように仕事を進めるか」に影響を与える要素です。
日本人は、スループットである人間関係をより気にかけると言えそうです。
■インプットの重要性~なぜ日本人は重視しないのか?
一方で、会社の方向性が見えないという海外の従業員の声は、仕事のインプットが見えないことを意味します。
組織が目的や方向性を持った共同体だとすれば、それが不明確であれば、自身の仕事が会社業績にどうつながるのか、数字以外の部分は見えにくくなります。
その時々で数字を積み上げることがキャリア構築につながるのであれば良いですが、キャリアという長期にわたる一連の仕事のつながりを考えると、数字の先に目的があった方が組織の中の階段を駆け上がるタイプのキャリアには良さそうです。
つまりは、会社の成長と個人の成長とをしっかりリンクさせるためのインプットとして、会社の方向性が重要だと言えそうです。
会社の方向性から紐解いて、組織内の各階層・職種の仕事内容、目標が決まる。
会社の方向性という抽象的な情報を、個人レベルにまで具体化したものが、目標と言えるでしょう。
このつながりを感じながら仕事をすることは、仕事に目的を与えることになり、先ほど申し上げたように、長期的なキャリア形成に良い影響を与えそうです。
日本人上司の下で働く香港人社員からこんな声を聞いたことがあります。
「数字の目標は伝えられるけれども、そもそも何をしてほしいのか良く分からない。」
一方で、日本人駐在員からは、「数字の目標は評価しやすいけれども、定性的な目標は評価しにくい。」
同じことを違う方向から見ているように思います。
職務記述書という仕事内容を規定する文化で育ってこなかった日本人は、その時々の数値目標は伝えども、肝心かなめの仕事内容や責任、次のキャリアステップに必要なスキル・経験といった仕事上の定性的なリクエスト、つまり仕事の具体的なインプットは伝えない傾向があるということになります。
日本では、就職よりも「就社」と言われるように、終身雇用社会の下ではキャリアは会社が作る・守るものとして、会社の用意したレールに乗って仕事をする人材が好まれてきました。
そのような社会を背景として、インプットを明確に伝える習慣が少ないと推測します。
一方で、海外では、組織への帰属をより短期間でとらえ、自らでキャリア形成をしていかないといけないという認識が高い。
(勤続が長い人は、キャリアを会社に委ねているわけではなくて、その会社の安定性に賭けていると言った方がしっくりきます。
その人に、異動を依頼すると揉めるケースが多いはずで、これこそが会社にキャリアを握られていない証左とも言えます。)
それが故に、日本人はより意識して、仕事のインプットとして、定性的なリクエストを伝えることが重要と考えられます。
■ワクワクするようにリクエストを伝える
さて、やっと最初の話に戻ります。在宅勤務で社員の理解や共感が見えていないが故のモヤモヤの根源は、この「インプット」のメッセージ発信不足にあるのではないかと思っています。
ここは私自身も反省すべき点が大いにあります。
仕事の「インプット」をしっかり言語化しておくことで、理解度・共感度チェック、さらには部下へのフィードバックの有効・効率性が上がりそうです。
では、どのように「インプット」を伝えてあげればよいのでしょうか。
相手となる社員が当社で働く理由にもよりますが、「これができたら面白くないか」「あなただから頼むのだ」といったような、相手がイキに感じる、ワクワクするような言葉を添えて伝えるにつきるのではないでしょうか。
むしろ、マネジメントとしての問題があるとすれば、会議室から出る際の表情が見えなくなって、理解・共感度が把握できないことではなくて、一人一人の部下に対して、「インプット」であるリクエストを、ワクワクさせるように伝えきれていないことに問題があるのではないかと思います。
全員に対して、ワクワクさせられるようなアサインメントがあるわけでも、伝え方があるわけでもないのも確かです。
であれば、将来を期待している人材に対してだけでも、そんな仕事の配り方・伝え方ができると違ってくるのではないかと思います。
ワクワクした社員からの情報提供を元に、結果的に、他の社員の情報が耳に入りやすくなることにもつながるのではないでしょうか。
在宅勤務時には特に気を遣うべきポイントではありますが、在宅勤務が続く場合も、続かない場合も、「インプット」のメッセージ発信にこだわってみてはいかがでしょうか。